tagCANDY CGI 忍者ブログ
HOME Admin Write

Of Course!!

二次創作のイラストや小説を扱ってます。各作者様方・制作会社様とは一切無関係です。同性愛表現のあるものも置いているので、苦手な方はご注意を。ちょくちょく萌え語り・日常話も混じってます。




×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ABパロです。死後の世界が舞台という性質上、二人とも死んでるというのが前提です。暗いです。


 芳しい香りがする。何かが頬を掠めてくすぐったい。ゆっくりと目を開いた私は、周りを見回した。見渡す限り広がる花々が、そよ風に揺れている。そうか、この香りだったんだ。
 上体を起こし、改めて周りを見る。どうやらここは、学校の中庭みたいだ。自分が座っているのが花壇だと気づいて腰を上げる。何で私こんなとこで寝てたの!?
 ん? あれ、ちょっと待って。ここは確かに学校だけど、私が通っていた所とは違う。校舎も中庭の風景も、初めて見るものだ。よく見ると、着ている制服もおかしい。どうしてこんなことに? 何があったんだっけ?
 考え始めた瞬間、思い出した。夕方の通学路。雨。薄暗い視界に飛び込んできたヘッドライトの明かり。鳴り響くクラクション。近づいてくる。避けられない。逃げられない。私が、私が終わる。
 これだけで、充分すぎるほどに分かっちゃった。私、死んだんだ。じゃあここは天国なのかな。少なくとも地獄ではなさそうだ。だってとても暖かな太陽の光に照らされて、花々も可憐に咲き誇っている。その中で、私が寝ていた場所だけ花が萎れていた。私をここに連れてくるのはいいけど、場所を考えてほしいな。潰された花がかわいそうだよ。
 それにしても、これからどうすればいいんだろう。制服を着て学校にいる以上、私はここの生徒ってことなんだろうけど、自分のクラスが分からない。とりあえず移動してみようか。
「あぁ姫よ、どうか一度だけでも私に微笑んでくれないだろうか」
 低く張りのある男性の声に振り返る。
「あなたの笑顔を見ることができたなら、私は地獄の業火に焼かれても構わない」
 声の方へ足を進めると、私より少し小柄な男子生徒の姿が見えた。
「なぜあなたは誰にも心を開かない? どうすればその美しい顔を綻ばせてくれるのか、教えてくれないか」
 彼は光を纏っている。私にはそう見えた。太陽ですらも、彼を照らすためのスポットライトなんじゃないだろうか。バリトンボイスが耳に心地いい。
 眉をひそめた彼が、手元の台本に目を落とす。
「あー、何か違うな。やっぱり俺じゃなくて他に役者を見つけた方が」
 顔を上げた彼と視線がぶつかった。彼が目を見開き、私を見つめる。こちらへ歩いてきたかと思うと、私の手を握ってきた。
「おまえ、演劇に興味ないか?」
「……演劇、ですか?」
「あぁ。人を集めて一つ劇をやろうと思ってるんだけど、肝心の主役にぴったりの奴が見つからなくて」
「えっ、あなたがやるんじゃ」
「そのつもりだったけど、自分じゃしっくりこないんだよ。だからおまえさえよければ、主役になってほしい。おまえは主役のイメージそのものだ」
 この人は何を言ってるんだろう。どう考えても彼自身がやるべきだ。でも、こんなに真剣な目で頼まれたら、私、
「やります。やらせてください」
 手を握り返すと、彼の表情が綻んだ。
「本当か!? じゃあ悪いけど頼む。そうだ、おまえの名前を訊いていいか? 俺は堀政行だ」
「鹿島、鹿島遊です」
「そっか。これからよろしくな、鹿島」
 握っていた手を離し、目の前に差し出してくる。改めて握手すると、また手を握られた。
「よろしくお願いします」
 彼のことはどう呼べばいいんだろう。堀くん? 堀先輩?
「あーそういえば、おまえっていくつだ? 高三か?」
「いえ、高二です」
「じゃあ俺の方が上か」
 えっ、彼が年上? それじゃ、
「堀先輩」
 彼は目を丸くして私を見た後、笑った。
「この世界で年下と話すことないからかな。何か照れるな、そういうの」
 それを見た瞬間、胸が温かくなった。どうせ死んだ身だ、この世界で過ごす時間を私はこの人に捧げよう。


「かーしーまー! 今日はサボるなって言っただろ!!」
 廊下を走る私と堀先輩を見て、周りの生徒が苦笑する。たまに呼びかけてくれる女生徒に笑顔で手を振っていると、後頭部に何かがぶつかった。倒れた私に、足音が近づいてくる。
「おまえ本当にやる気あんのか!? 分かってんだろ、おまえが主役なんだぞ」
「分かってます、分かってますってば!」
 襟首を掴まれ、引きずられた。怒る堀先輩を見ていると、前に交わした会話を思い出す。
『死後の世界、ですか?』
『あぁ。ここは、未練を残して死んだ奴がその未練を晴らすための場所らしい』
『……もし未練を晴らしたら、どうなるんですか?』
『消える。いわゆる、成仏した状態になるんだろうな。今までに、消えていった奴を何人も見た』
 堀先輩も、この世界についてそれ以上は分からないって言ってたっけ。
「何ぼさっとしてるんだ。元はといえば、おまえが逃げ出すから」
「すみません、すみませんってば」
 笑顔を見せると、「へらへらしてんじゃねぇ」と小突かれてまた引きずられる。でも仕方がないじゃないですか。私、怖いんですよ。ここは未練を晴らす場所だと言ったその口で、「今度こそ納得のいく舞台を作りたい」と言ったあなたの願いを叶えることが。あなたを、失うことが。
 自分の未練が何なのかさえ分からなかった私だけど、今、堀先輩の存在が未練になってるんですよ。


 とうとう、公演の日が来てしまった。客席は超満員だ。堀先輩は「主役がいいからだな」なんて笑ってたけど、先輩の人徳によるものが大きいんじゃないかな。
 舞台が幕を開けてからは、客席を気にする余裕もない。ただセリフを言うこと、演技をすることしか頭になかった。
「やっと笑ってくれたね、姫。思った通りだ。君の笑顔は、どんな薔薇よりも美しく気高い」
 低めの声で囁くと、姫役の女の子が頬を染める。彼女を抱き締めると、客席から歓声が上がった。
 きっと、この舞台は大成功だ。舞台に立ったのが初めての私でも分かる。堀先輩は今、どんな気持ちで私達を見てるんだろうか。
 身体を少し離し、姫役の女の子と顔を近づけ合う。彼女の頬に唇が軽く触れるかどうかという状態で止まると、更に黄色い声が届いた。手で隠してるとはいえ不安はあったけど、ちゃんとキスしてるように見えたらしい。
 観客は満足しつつも、堀先輩は納得ができない舞台になればいい。そんなことを考えてる私って最低だ。
 最後まで演じきり、演者そろって客席へ頭を下げる。幕が下りている間も、下りきった後ですら拍手が鳴りやまない。その状況に興奮しきった共演者と喜びを分かち合うのもそこそこに、舞台袖まで走り出した。
 先輩、堀先輩。ちゃんといますよね? 今日の舞台は満点じゃないって叱って、次こそはって笑ってくれますよね?
 走り寄った先に、堀先輩の姿はなかった。反対側の舞台袖に走って行っても、やっぱりいない。通りかかった小道具担当の男子に声をかけられ、振り返った。
「堀先輩みなかった!?」
「……えっ? 堀先輩って誰?」
 その答えに、目を見開いた。こんな会話はこの世界に来てから、何度もあったことだ。
 この世界で過ごすうちに、私も段々と気づいていった。この世界にいる人間は二通りに分けられる。一つは私や堀先輩みたいに、死んでここに来た人間。もう一つはずっとこの世界にいる、いわゆるモブ的な存在だ。前者が消える度に、後者がその存在を忘れていく。見飽きるくらい何度もそれを見てきた。
 もうこの答えだけで分かる。先輩は、この世界のどこにもいない。今回の舞台で、満足してしまったんだ。
 不思議そうな顔をする男子を振り切り、走り出す。でも、どこに向かえばいいっていうの。逃げても追いかけてきてくれる先輩はいないのに。もうどこにも、存在しないのに。
 舞台となった体育館を出て、中庭まで駆けていく。初めて堀先輩と出会った場所。彼の演技に魅入られたところ。
 せめてもう一度、先輩の演技を見たかったな。でも、それも叶わぬ夢だ。何で私、先輩の演技が好きだって彼に言わなかったんだろう。言っていれば、違う未来があったかもしれないのに。
 ねぇ先輩。あなたの未練は晴れたかもしれませんが、私はどうやって未練を晴らせばいいんでしょうか。私はただ、またあの時みたいに、光を纏ったあなたを見たいだけなのに。それだけでいいのに。
 その場に膝をつき、うなだれる。熱くなった目元から、雫が零れ落ちた。
 風が髪を揺らし、芳しい香りが鼻をくすぐる。あの日と変わらない香りに、私の涙腺が余計に刺激された。
PR

プロフィール

HN:鳴柳綿絵(なるやなぎ わたえ)
好きな漫画・アニメ・音楽など:ブクログに登録してます

男女CPもBLもGLも好きなCP厨です。公式CPは基本的に好き。安芸の国にいます。
好きなCPは野崎くん:堀鹿、進撃:エレミカetc

メールフォーム

ご用がある場合はこちらからどうぞ。返信はブログ上で行います。メルアドを入れてくださった場合はそちらへ返信します。
Copyright ©  -- Of Course!! --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by 押し花とアイコン / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]